今回は私が教師時代に経験した学校での話です。当時、私は1年生の担任をしていました。1年生はとっても可愛いのですが、学校生活が初めてなので担任をもつのは大変です。連絡帳の書き方、校庭での遊び方など、教えることは勉強以外にもたくさんあります。
毎朝泣いて登校するAちゃん
クラスの中で印象に残っているAちゃんという女の子がいます。夏休み明けから泣きながら登校する日が増えてきました。学校では気の強いところも見られましたが、家では妹に喧嘩して負けたり、妹に母親を取られたりと、しっかり甘えられていない様子でした。 Aちゃんは毎日毎日、泣きながら母親に連れられて登校しました。小さなAちゃんが毎朝泣いていることが、私にはとても可哀想で心苦しかったです。毎日のように夕方、Aちゃんのお家へ電話をし、その日の学校での様子を伝え、家での様子を聞いて情報共有するように努めていました。
節分の日に校長先生から鬼が出る説明
節分の日。朝から1・2年生の担任が校長室へ呼ばれました。私は赴任して初めてだったので知らなかったのですが、節分の日は給食の時間、1・2年生の教室に鬼が出ると言うのです。 校長先生は「今年も例年通り鬼が各クラスを回りますから、もしも極度に怖がる子がいる場合には配慮をお願いします。子どもたちにも説明をしてあげてくださいね。」とお話をされました。 すぐにAちゃんの顔が浮かびました。特別怖がる子だとは思いませんでしたが、少しずつ泣いて登校する日が減ってきたところだったので、また泣く日が増えたら…と、危惧してしまいました。 その日、四時間目は生活科の時間でした。昔遊びや行事について、体験を通して学んでいきます。一通り節分について学んだあと、低い声で「この学校は節分の日、給食の時間に鬼が出るんだって…。」と、話し出すと、子どもたちから一斉に「ぎゃー!」と、歓声があがりました。 「鬼を退治するために、給食で出てくる節分の豆を少しだけとっておいてね。鬼がきたら皆で豆まきしようね。」と話すと、皆の目はキラキラと輝き、いつも以上に張り切って給食の用意を始めました。
給食の時間に鬼が出た
給食を食べ始めた頃、廊下で校長先生が「鬼が1年生の教室に向かっているぞー!」と、知らせてくれました。息をひそめる子どもたち。私はそっとAちゃんの傍にいきました。Aちゃんは私が傍に来てホッとした様子で、小さい手に豆を握りしめていました。 ドスドスという力強い足音がして、赤鬼の面を付けた先生が教室をのぞき込みます。子どもたちは一斉に「鬼はー外!!!」と叫んで、豆を投げつけました。Aちゃんも必死に豆を投げます。 赤鬼は「痛い痛い! 元気なクラスだ!」と逃げていきました。大袈裟に演技をしてくれて、子どもたちは大喜び! Aちゃんに「怖くなかった?」とこっそりと聞くと、「うん!面白かった!」と、満面の笑顔で答えてくれました。 Aちゃんは、節分のあとも泣くことなく、毎朝笑顔で登校してくれて、私もホッとしました。友だちと楽しい想いを共有することで、学校生活に安心感をもつことができたのかなと思います。 その後色々な学校に赴任しましたが、節分に鬼が出てきてくれたのはあの学校だけでした。小さな行事のために、他学年の先生が時間を作り配慮するのはとても難しいことなので、素敵な学校だったなぁと、今でも良い思い出です。 (ファンファン福岡公式ライター/冬野はな)
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