續・祖母が語った不思議な話:その肆拾玖(49)「こわいもの」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 小学5年生の秋、隣りのH小学校で図工の合同授業が行われた。
 エリア内の各校から同じ学年の生徒5人ずつが参加して同じテーマで絵を描くという取り組みだった。
 メンバーに選ばれた私は、教師に連れられ朝からH小に向かった。
 H小は古い校舎だったが1箇所だけとても新しい階段があるのが不思議だった。
 廊下の突き当たりにある図工室は広く、他の参加者はもう席に着いていた。

 担当教諭の説明が終わり、発表されたテーマは「こわいもの」だった。
 聞いた瞬間に描くものは決まった。
 数カ月前に観た映画に出てきた大気を操る悪魔だ。
 それから二時間くらい、皆黙々と絵を描いた。

 お昼の給食を食べ終え、他の参加者の絵を見て回った。
 幽霊、妖怪から戦争、原爆といったものまで多様な「こわいもの」が表現されていて、中には自分の母親といったユーモラスなものもあった。
 そんな中に一枚の不可思議な絵があった。
 なんとも薄暗い中に割烹着を着てマスクを着けうつむいた青い人物が描かれていて、ひどく心がかき乱されるようだった。

 「気になった?」
 その絵から離れられずに見ていたとき、後ろから話しかけられた。
 声の主はとても色の白いかわいい女の子だった。

 「不思議な絵だね。なぜだか分からないけれど…気持ちがぞわぞわする。すごく怖い」
 「伝わったんだ! 私、この…」
 と、ここまで聞いたところで制作再開となった。

 皆が絵を描き終えた頃には校舎はもう赤く染まっていた。
 筆を洗っていると、あの女の子がやって来た。
 「ちょっと来て」と言うなり手をつかまれた。

 ドキドキした。

 引かれるままに走って行くと、女の子は来る時に見た新しい階段の前で止まった。
 「あの絵、ここなんだ」
 「そうだったんだ」
 「ここね…怖いんだよ。何人もここから転落してケガしてるの。おはらいもしたけどダメで、今年の初めに新しくしたんだ」
 「描かれていた人は誰?」
 「分からない…でも生徒は何人も見てるの…先生たちは見間違いって言ってたけど、この階段を絶対に使わない先生もいたから見た人もいると思う。だからおはらいやったり新しく改装したりしたんだよ」
 「じゃあもう大丈夫なの?」
 「大丈夫じゃないと思う」
 「なぜ?」

 女の子は私の背後を指差した。

 「そこにまだ、いるもん」

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 「あら、今日はどこに行ったの?」
 家に帰り着くなり違和感を感じたのか祖母が尋ねたので、H小学校でのことを話した。

 「H小学校か…昔はあの辺りには入らずの地が多かったけど、そんな昔の因縁じゃなさそうだね。まぁ近づかなければ心配ないよ」
 「うん。でもあの女の子、大丈夫かな?」
 「話を聞くと勘もいいし、ちゃんと怖いものが分かっているみたいだからきっと大丈夫だよ」

 祖母の言った通り、その女の子とは無事に高校で再会することができた。 

チョコ太郎より

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

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